低身長

※来院時は要予約

(1)低身長の定義

身長には、かなりの個人差があります。身長が、低いからといってすぐに病気だと考える必要はありません。しかし今は身長が低いけれども、きっとそのうちに伸びてくるに違いないといって楽観視するのも問題です。

やはり身長が、同年齢の子供に比べて著しく低い場合には、注意が必要です。低身長かどうかは、基準となる「標準成長曲線」というグラフと比較して判断します。保育所、幼稚園や学校で測定した身長を曲線に当てはめて、身長がマイナス2SDのラインより下回った場合や、成長曲線がレーンを横切って標準曲線から離れていく場合は、成長障害と考えます。

低身長には、幼いころから身長が低い「突発性」と、ある時期から急に身長の伸びが鈍くなる「器質性」とがあります。「器質性」低身長の原因には、脳腫瘍や慢性甲状腺炎のように至急に治療する必要があるものが含まれますので早期の対応が必要となります。

(2)低身長の原因

1)ホルモン分泌の異常
この原因の代表が、成長ホルモン分泌低下によるものですが、甲状腺ホルモンや性ホルモンの分泌異常も低身長の原因になります。

2)染色体異常
ターナー症候群は、女の子の低身長の原因として代表的なものです。そのほかには、プラダー・ウィリー症候群があります。

3)骨や軟骨の異常
「軟骨異栄養症」が代表で、生まれつき骨や軟骨の成長が悪いため、手足が異常に短く、バランスの悪い体型となります。

4)内臓の異常
心疾患、腎疾患、肝疾患、消化器疾患などがあると当然ながら成長に影響を現れます。実際に、低身長から臓器の病気が発見されることも少なくありません。

5)愛情遮断症候群
親から十分な愛情を与えられず、虐待を受けるなどで精神的なストレスを受けると、一時的に身長の伸びが悪くなります。

以上のように、低身長の原因は様々ですが、実際には、その原因の多くは、遺伝的や体質的なもので、ホルモンの分泌異常はなく、健康なのに単に身長が低いというものです。
大切なことは、身長が伸びる可能性がある子供たちを早く発見し、有効な治療を行うことです。思春期が過ぎれば身長の伸びは止まります。ですから、できるだけ早期に診断する必要があるのです。

(3)低身長の診断のための検査

「最近身長の伸びが悪くなった」あるいは
「まだ小学生なのに急に他の子供に比べ、急激に身長が伸びてきた」
という場合は、やはり一度は、医師に相談されることをお勧めします。

特に身長が、標準値より標準偏差の2.5倍以上低い場合は、なんらかの異常が隠れている可能性がありますので、早期に検査を受ける必要があるでしょう。
検査といっても、いきなり特殊な検査をするわけではありませんので、不安に思うことはありません。

順を追って説明しましょう。

1)身長の記録より成長曲線を作成
現在の身長も大切ですが、今に至るまでの身長の経過も重要になります。体質性の低身長(単に小柄な体質)の場合は、そのほとんどが、1歳までの伸びの遅れで、1歳以降は、ほぼ順調に発育します。今も低いが1~2歳のころも低い場合は、体質だけの問題である可能性が高いといえます。逆に、3歳ごろまでは標準に近い身長であったのに、今では、クラスで1番前になった場合は、成長ホルモンの分泌低下が疑われるわけです。医療機関を受診されるときは、母子健康手帳、幼稚園(保育園)の健康記録、学校での健康診断の記録を用意してください。現在までの大切な身長の記録が書かれています。

2)手の骨(手根骨)のエックス線検査
骨の成熟には、個人差があります。その成熟度は骨年齢として表されます。普通は、暦年齢と骨年齢は、一致しますが、低身長の子供は、骨年齢のほうが、若いことが多いのです。成長ホルモンや甲状腺ホルモンの不足はあれば、骨年齢は著しく遅れます。逆に言えば、骨年齢の遅れがあるほど、治療により、身長が追いつく可能性が高いといえます。

3)一般的な血液検査、尿検査
全身的な病気の有無を調べるために、血液検査や尿検査を行います。一見元気に見えても、尿検査で血尿・タンパク尿が見つかり、腎不全と診断されることもまれにあります。また簡単な血液検査で、肝臓の病気が明らかになることもあります。すぐに成長ホルモンが足りない病気だと考えないで、まず全身の病気が隠されていないかどうか確認することが重要なのです。

4)成長ホルモンの分泌負荷試験
マイナス2.5SD以下の低身長があり、骨年齢の遅れを認め、全身の病気もないことが確認されれば、いよいよ成長ホルモン分泌低下症を含めたホルモンの分泌状態を検査します。甲状腺ホルモンや性ホルモンは、1日の変動は、ほとんどありませんので、いつでも検査できます。
しかし成長ホルモンは、変動が激しく、空腹時、軽い運動後や睡眠時にたくさん分泌されますが、それ以外のときは、あまり分泌されません。したがって、測定するときの条件をそろえないと、うまく評価できません。そこで一時的ですが成長ホルモンをたくさん分泌させる薬を内服したり、注射したりして同じ条件の下で、血液をとって調べるのです。これを負荷試験と呼んでいます。

負荷テストは、異なる薬を使って2種類以上行うことになっています。

(4)成長ホルモン治療

負荷試験で成長ホルモンの分泌が異常に少ないことが分かれば、成長ホルモン治療を行うことができます。いくら身長が低くても、成長ホルモン分泌が正常であれば、治療はできません。成長ホルモン治療は、あくまで、足らない分を補ってあげるという「補充療法」なのです。

実際の成長ホルモン治療として、成長ホルモン製剤を毎日、または週に数回自宅で注射をします。基本的には、本人が行いますが、年齢の小さな子供さんの場合には、親が注射をすることになります。注射といっても、ずいぶん注射器や針が改良され、痛みも少なくなっていますので、心配なく治療を続けることができます。

子供さんは、すぐに慣れますし、また治療の作用が出始め身長の伸びが良くなれば、それが励みとなって頑張れるものと思います。