小児科診察室より一言 No.2

小児科診察室より一言 No.2

乳児健診をしていてよく聞かれる悩みに「夜泣き」があります。2~3時間ごとに泣かれ、その度に起きてミルクを飲ませないと眠らない。昼も子育てでへとへとなのに、夜もほとんど眠らせてもらえない。ご主人があまり協力的でなければストレスが溜まり、いらいらする毎日が続きます。自分の疲れだけでなく、もしかしたら、赤ちゃんに問題があるのではないか、どこか悪い所があるのではないか、ミルクが足らない?そういえば、どこか痛そうに泣くような気がするし、ミルクを飲ませたら眠っていくからお腹がすいているだけなのか、もしかしたら母乳が足らないのかな、体重があまり増えていない気がするし、などといろいろ心配して考え悩みさらにストレスが溜まっていくことになります。特に夜間に大泣きされるとご近所の人に余計な気を使うことになります。そうなれば、可愛い筈の我が子が鬼に見えることもあるでしょう。
ほとんどの「夜泣き」は、病気ではなく、成長の過程で見られるものです。赤ちゃんは、夜間2~3時間ごとにレム睡眠といって浅い眠りに入ります。その眠りの浅い時に目が覚め泣いてしまうのです。もちろん赤ちゃんも起きたくて目が覚めたわけではありませんから、眠たくてぐずるのです。そして大好きなお母さんを探して泣き叫ぶのです。言葉が喋れることができれば、きっとこう言うでしょう。「お母さんまだ眠たいよう!お願いだから早く眠りにつかせて」と。赤ちゃんにとって、お母さんに優しく抱かれお乳を吸うことはとても心地良いものです。そして再び安らかな眠りにつきます。
もちろん、眠りが浅くなっても自分の指を吸いながら眠ってゆく子、あるいは手足を動かして遊んでいるうちに自然に眠ってゆく子も多くいます。夜泣きでお悩みのお母さんにとっては羨ましい限りです。一般には、母乳を飲んでいる赤ちゃんにひどい夜泣きは多いようです。もう我慢できない、これ以上夜泣きが続くと私どうかなりそうと悩み続けているお母さんは母乳を止めてみても良いかもしれません。でも、どんな赤ちゃんでも三歳を過ぎる頃になるとぐっすり朝まで眠るようになります。小学生以上の子供を持つお母さんに聞いてみてください。お宅のお子さんは、夜泣きをしましたかと。きっとこう答えると思います。「それはそれは大変だったんですよ。夜は何度も起こされて睡眠不足で、もう二度と御免だわ」でもそういうお母さんの表情を眺めてください。決して嫌そうではなく、昔を懐かしく思い出したような幸せいっぱいの表情をしておられますよ。私は、そんなお母さんの表情を見ては顔が緩みます。医者としてそして父親として。
頑張れ!お母さん。

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待合室のご案内

高熱で機嫌が悪い子供さんを抱えて、お母様の疲れも大変なものと思います。
そこで待合のスペースは、できるだけ広く取りました。風に揺れる青葉が見えるように、大きな窓をとり、開放感と安らぎを少しでも味わっていただければと願っています。
小さな子供さんには、安心してくつろいでもらえるように、畳コーナーも用意しました。退屈しないように、壁にかけたテレビからは、子供さんに喜んでもらえるアニメが放送されています。

待合室のご案内

小児の中耳炎

中耳炎は、まれな病気ではなく、ごく一般的な風邪症状に引き続いてしばしば起こります。耳の痛みや耳だれが出なければ、風邪症状に隠れてしまって中耳炎に気がつかないことが多いため注意が必要です。乳幼児(特に乳児)は、痛みに対して非常に鈍いため発見が遅れがちです。

中耳炎は、微生物が耳の穴から進入して起こるのではなく、耳と鼻をつなぐ「耳管」を通して進入して起こります。鼻がつまり、黄色や黄緑色のいわゆる「膿の鼻汁」が溜まってくると中耳炎を起こす危険が高まります。これから季節は、気温の差の激しい空気の乾燥した時期に入ります。鼻かぜが増え、またアレルギー性鼻炎が悪化する頃です。特に3歳までの子供さんの場合は、単なる「鼻かぜ」と安易に考えないで、子供の状態をよく観察してください。

次のような症状や徴候に注意してください。

  1. 鼻声が長く続いている。
  2. 青鼻」が続いている。
  3. たんの絡んだ咳がなかなか取れない。
  4. 喋る声が、最近大きくなった。
  5. 会話中、何度も聞き返すことが目立つ。
  6. 眼は赤くないのに、朝起きると「目やに」がいっぱいついている。特に1歳までの子供さんの場合
  7. 鼻かぜが治らないで、毎週のように熱を繰り返す。
  8. 夜だけ熱が出て、夜泣きがひどい。
  9. 抗生物質を飲むとすぐに下がる「発熱」を繰り返す。

気にかかることがあれば、早いうちに診察を受けましょう。

アトピーの検査って何?

アトピー性皮膚炎の検査といえば、みなさんがすぐに思いつくのはアレルギーの検査だと思います。「検査をしたけれどうちの子供アトピーではありませんでした。」とおっしゃるお母さんがおられます。「どうしてアトピーでないとわかったのですか?」と尋ねると「アレルギーの検査をしても何もアレルギーがなかったから」という返事が返ってきます。
《アトピー性皮膚炎》とは、通常皮膚の乾燥を伴った慢性の炎症を主体とする皮膚の病気をいいますが、実際にアレルギー検査をしても異常のない方もおられます。アレルギーは、悪化する因子にはなりますが、直接の原因ではないからです。
では、どうして皮膚に炎症が起こるのでしょうか?掻き傷、けが、かぶれなどにより皮膚の表面(表皮)に傷がつくと、表皮の角化細胞から白血球の動きを活発にするケモカインというタンパク質が作られ傷の周りに放出されます。すると血管の中にいた白血球がこのケモカインを感知して「敵が侵入してきたぞ」と気づいてあわてて傷の周りにたくさん集まってきて、その結果として赤く腫れるという病変を作り出します。これが炎症の本体です。通常は傷口からの細菌の侵入を防ぎ、傷を早く治す生体の防御反応ですが、アレルギー体質があると集まった白血球の仲間の「Th2細胞」というリンパ球が、アレルギーを起こす細胞を刺激してアレルギー症状が出現し、さらに炎症が燃え盛ることになるのです。
最近、皮膚の表皮で産生されアトピー性皮膚炎と関係が深いTARCと名付けられたケモカインを簡単に血液検査で測ることができるようになりました。アトピー性皮膚炎の重症度を見た目ではなく数値で知ることができるため、治療上極めて有用な検査となってきました。アレルギー検査には限度があり、アレルギーがあるのに検査で検出されない方もおられますので、アレルギー検査の値ではアトピー性皮膚炎の重症度を正確に知ることはできません。
TARCは、皮膚の炎症を敏感にとらえるため、見かけ上治ったように見えても皮膚の奥深くは火種が残っているかどうかまでわかりますから、まだ積極的な治療を続ける必要があるか否かを決める優れた指標といえます。

ただ、残念なことに、アトピー性皮膚炎の状態が把握できてもきちんとした治療を行っていない方が多くおられます。その最大の原因は、治療の軸となる治療薬の「ステロイド」に対する間違った知識と風潮です。ステロイドは怖い、長い間続けると皮膚が薄くなる、あるいは皮膚が黒ずむ。こんなにアトピー性皮膚炎がひどくなったのは昔ステロイドを使ったからだという情報を耳にするとやはり心配になります。でも心配ありません。アトピー性皮膚炎治療において、ステロイドの副作用だと言われていたもののほとんどは、すべて中途半端な治療のために起こったアトピー性皮膚炎そのものの悪化による症状であることがすでに明らかにされています。悪いのはステロイドではなく、きちんとした治療をしてこなかったためなのです。患者さん側だけでなく、治療する側にも問題がありました。「きつい薬は心配でしょうから安心な弱い薬を出しておきましょう」と言ってきた傾向がありました。弱いから副作用もないとは全く根拠のないことなのですが、お母さん方は安心するでしょう。これは、裏返せば誰が考えても「弱い薬」つまり「あまり効かない薬」にしておきましょうと同じ意味なのです。でも、最近、気管支喘息の治療に吸入ステロイドが使われ優れた効果がみられるようになり、吸入ステロイドが当たり前のように使われ出しました。この吸入ステロイドも昔からある薬で、ステロイドバッシングに遭い、姿を消しかけていた薬ですが、ようやく日の目を見ることになりました。早く塗り薬も完全復活してほしいものです。
最近アトピー性皮膚炎が増えてきた、しかし軽症の方が多いといわれます。塗り薬をつければすぐに治っていた方が、間違った思い込みで中途半端に放置してきたこともおおいに関係あるでしょう。アトピー性皮膚炎は、必ず正しい治療を受ければ良くなります。塗り薬で良好な状態を続ければ自然治癒が可能なのです。ですから「TARC」を指標にコントロールすることは、アトピー性皮膚炎を早く治す近道になるはずです。アトピー性皮膚炎にはステロイドという特効薬があるのですから、子供たちが痒みから解放されて快適な生活を送れるように薬を正しく使いましょう。