小児科診察室より一言 No.3

小児科診察室より一言 No.3

とにかく小さい子供達はアンパンマンが好きだ。よちよち歩きの幼児でもアンパンマンの絵を見つけると興味を示す。どうしてだろう、アニメに登場するキャラクターはほかにもいっぱいいるけれど、とりわけ3歳以下の幼い子供たちには、大人気で「パンマン」と言って近づいてくる。当クリニックには、20数年前から色々なアニメの人気者の絵やシール、ぬいぐるみなどを飾っているが、今でもアンパンマンはダントツの人気ものだ。

最近、娘からある興味深い話を聞いて、ふとその理由を考えてみた。アンパンマンは、ジャムおじさんが作ったアンパンの種にめがけて空から降ってきた「いのちの星」が宿り誕生した。この際に「ぼく、アンパンマンでちゅ」と自ら名乗っている。つまり自らの意志でジャムおじさんのアンパンを選んで生まれてきたようだ。

話は変わるが、胎児記憶について研究している学者によれば、3歳までの幼児は3人に1人おなかの中にいるときの様子を覚えているらしい。どうして生まれてきたのって聞くと拙い言葉で「明るいものが見えたから一生懸命泳いできたよとかお空から見ていたらお母さんの子供になりたくて飛んできたよ」って答えるそうだ。子供は親を選べないって言うけど、いやいや子供は親を選んで生まれてくるのだ。では何のために生まれてきたのって聞くと「お母さんを助けるために生まれてきたんだよ」って答える子が多いらしい。あれ?そんな話どこかで聞いたぞ。そうだあれだ!みなさんがよく聞いた歌を思い出した。「何のために生まれて何をして生きるのか 答えられないなんてそんなのは嫌だ、何が君の幸せ何をして喜ぶ わからないまま終わるそんなのは嫌だ」

あかちゃんはアンパンマンと同じ気持ちで生まれてくるのかもしれない。胎児記憶はもしかしたら生まれてきてからの母親の話から刷り込まれた記憶かもしれない。そんなことどうでもいいではないか。わざわざ数多いる夫婦の中から私たちだけを選んで生まれてきてくれたと考えたら感謝感激だ。幼い頃にだけ残っている記憶が、アンパンマンに結び付くからアンパンマンに親しみを感じてしまうのかもしれないとふと考えてしまう。いずれ4歳過ぎれば胎児記憶は消えてゆきアンパンマンも忘れ行くだろう。日常の診察の中で、幼い子供たちが「パンマン」を見て喜んでいる姿を見ると、おなかの中にいた記憶やアンパンマンは忘れてもお母さんを助けるために生まれてきたことは忘れずにいてくれよって心の中で叫んでいる自分に気づき、思わずニヤッとしていることが多くなってきたようだ。そしてできることならお父さんのことも忘れずにいてねと心の中で願っている。